朗読台本

【朗読台本】戯れの運命【10分~15分】

【朗読台本】戯れの運命【10分~15分】
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作者名 紺乃未色(こんのみいろ)
サイト名 フリー台本サイト「キャラコエ」
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紺乃未色
紺乃未色
テーマは「思いがけない恋の結末」です。

概要

カテゴリ 朗読(一人)
ジャンル 現実世界
時間(目安) 10分~15分
あらすじ 新しいアルバイトスタッフとしてやってきた佐々木トモカ。
彼女によると、僕とは遠い昔に会ったことがあるらしい
注意 このストーリーはフィクションです。実在する人物や団体、出来事などとは一切関係がありません。

その他、朗読におすすめの台本は、以下のページにまとめています。

紺乃未色
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朗読におすすめ
朗読におすすめのフリー台本【短編・長編・中編】朗読に使えるフリー台本(原稿)です。短編・長編・中編ごとにおすすめを選びました。YoutubeなどのSNSへのアップや、朗読会、声の練習など幅広い目的でお使いいただけます。...

フリー台本『戯れの運命』

その人は、ファミリーレストランの新人アルバイト「佐々木トモカ」として僕の前にあらわれた。

「楓真(ふうま)くん、また会えたね」
そう声をかけてきたのは、休憩時間中、スタッフルームのイスに座っていたときのことだった。

「え?」
「ふふ」

彼女は真正面から、僕の目をじっとみて、ほほ笑んでいる。

「えっと……」
その甘ったるい笑顔に耐え切れず、視線を逸らす。

壁にかけられたカレンダーのなかでは、クマのキャラクターが笑っている。

「あんた、佐々木トモカのことが好きなのか?」
そう、からかわれたような気がした。

違う。ちょっとだけ、可愛いかもって思っただけだ。

「えっと……。ごめん。わかんないけど、ひょっとして同じ大学?」

そうだったらいいな。
たぶん、心のどこかで願っていた。

「ううん」
佐々木トモカは首を振る。
僕はがっかりした。

「じゃあ、どこで?」

「……あのとき、私はイギリスのお屋敷に住んでいて、楓真(ふうま)くんはそこの庭師をしていたの」

彼女の言葉を聞いたとたん、僕の頭のなかには、いくつもの薔薇の花びらが舞い散った……。
なんてことがあるわけもなく、ただぽかんと口をあけることしかできない。

「ねえ、聞いてる?」
「あ、うん。あのさ、それっていつの話?」

「ええっと、二百年くらい前だと思うわ」
「まだ、生まれてないよ」

「そりゃそうよ。ああ、そのあと、何度か会ったこともあるのよ。……聞きたい?」
「うん」

「あるときはねえ、私はホトトギス、楓真(ふうま)くんは橘(たちばな)の花だったわ。せっかく会えたっていうのに、あなたったら、うんともすんともいわないし、あげくのはてにどこかに吹き飛ばされてしまうし、さんざんだったわ」

佐々木トモカは、口を尖(とが)らせた。

「それは、ごめん」
まったく心当たりもないことを、僕は謝る。

「あ! それから、楓真(ふうま)くんが黄金のススキだったこともあるわ。夕陽を背景にして、風にゆらゆら揺れている姿がとても美しかったの」

佐々木トモカはうっとりとした口調で言った。

「そのとき、佐々木さんは?」

「私は赤とんぼ。ちょうど、今くらいの季節だったわ。お友達と一緒に草原を飛んでいたら、偶然あなたのことを見つけたの」

「それで、どうなったの?」

「声をかけようとしたら、すぐにヤギに食べられてしまったわ」
「ヤギに……。そう」
僕はとうとうなんと返していいのかわからなくなった。

「わかったでしょう? ずっとすれ違っていたの。でも、やっと会えた。お互い大学生で、おんなじアルバイト先。わたし、とっても嬉しいの」

佐々木トモカは、そう言って笑うと、自然な流れで小さな鞄(かばん)をたぐりよせた。

僕もつられるように、リュックサックのジッパーをあけ、そのなかに手を突っ込む。

二人は同時にスマートフォンをひっぱりだし、そうなるのが当然とでもいうかのように、連絡先を交換した。

 

佐々木トモカはメッセージをくれるだけでなく、ことあるごとに、話しかけてきた。

休憩中はもちろんのこと、お客さんが少ないちょっとした時間帯や、バイト終わりのタイミングなんかも。

悪い気はしなかった。
その……。わりとタイプだから。

でも、話の内容は、相変わらずぶっとんでいる。
バイト仲間たちからは、憐(あわ)れむような目で見られるしまつだ。

「佐々木さん、新人のわりに仕事はできるけどさ、なんか、頭のネジ外れてるよなあ。昔は、イギリスに住んでたんだってよ」

「ああ、俺も聞いた。楓真(ふうま)とはそのときに出会ったって話だろ? それで、今の世界でも再会できたって。本当なのか?」

みんなの視線がこちらに集合する。

「えっと、わかんない」
僕がおずおずと答えると、どっと笑い声が響く。

「そりゃそうだろ。でも、気をつけろよ。ずっとあんな話聞かされてたら、そのうち洗脳されるかもしれん」

「たしかに! 佐々木さん、楓真(ふうま)くんのこと好きなのかしら?」

「さあ? べつに興味ないし、害はないけどお、あたしはあんまり関わりたくはないかも」

彼らは口々にそんなことを言っていて、僕は「そりゃそうなるよな」とそのときは思っていたんだ。

それなのに、バイトからの帰り道、彼らの言葉を思い出すと、呼吸が荒くなり、歩くスピードがどんどん早くなった。

夕暮れのコンクリートを乱暴に踏みしめ、人混みにもかまうことなく、ずんずん進む。
周囲の笑い声や話し声がうっとうしくてたまらない。

それが、ふつふつと湧(わ)いてくる腹立たしさのせいだと気づいたとき、僕の足はぴたりと止まった。

「なんだ、腹立たしいって?」
一人、立ち止まり、呟(つぶや)く。

これじゃまるで、佐々木トモカのことを好きみたいじゃないか。

少し、休憩しよう。
ほてった体と頭を休ませなくては。

ちょうど目の前には、バーガーショップがあった。

窓ガラスに貼られた巨大ポスターのなかでは、目玉焼きとチーズをサンドしたバーガーが、どどんと存在感を放っている。

その背景には、うっすら光る満月と黄金の|絨毯《じゅうたん》があった。

「ススキ……」
僕は、そのポスターに吸い寄せられるようにして、店内へと足を踏み入れた。

 

さっさと注文を済ませて、トレイを持ち、一番奥の席へと向かう。

人は少ない。
これなら、四人掛けのソファ席を使っても文句はいわれないだろう。

腰を下ろすと、それまで感じなかった足の重みが伝わってくる。
「はあ」

バーガーが包まれている紙をたらたらとめくりながら、僕はため息を吐いた。

「佐々木トモカ」
小さく名を呼ぶと、胸の奥がざわめいた。

僕の魂(たましい)のなか、どこかにある引き出しが、カタカタと動いているみたいだ。
過去の記憶が、ここから出せと騒いでいるような気がした。

本当に、忘れてしまっているだけなのだろうか。

佐々木トモカのいうように、僕は、あるときは庭師で、あるときは橘(たちばな)の花で、あるときはススキだったのかもしれない。

それで、やっと今、大学生として彼女とまた会えたのだとしたら……。

なんて、ロマンチックな主人公なんだろう。
僕は、バーガーを両手で掴んだまま、そんなことを思った。

明日は佐々木トモカと休憩時間がかぶっていたはずだ。
もしも、タイミングがあえば、伝えてみようか。

僕も、ずっと君のことを探していたのかもって。

どんな顔をするだろう。
笑ってくれるだろうか。

 

「それでえ、どういう状況なわけ?」
突然、聞こえてきた甲高(かんだか)い声に、我に返る。

「そうそう! あたしたち、気になってたんだから!」

どうやら、同世代くらいの女性たちが、近くの席に座ったらしい。
さっきまでの静けさが一瞬でどこかへ吹き飛んで行く。

げんなりしたのは一瞬だった。

「ああ! 楓真(ふうま)くんのことね」
そのうちの一人が佐々木トモカだったからだ。

ふいに名が出てきたものだから、思わず身を小さくさせる。

彼女たちは、おそらく四人だ。
斜め後ろのソファ席にいるらしい。

「そう! アルバイト先の楓真(ふうま)くん。トモカの運命の人」
女性Aが言った。

僕は照れくさくなって、ひっそりと頬をかく。

「ふふふ。十三番目のね」
女性Bが付け加える。

「え?」と声を出したくなるのを堪える。
十三という妙な数字がひっかかる。

「もう! 今回は本物なんだから!」
佐々木トモカが声を上げる。

「またまたあ。いっつもおんなじこと言ってるわよ」

「トモカが惚れっぽいのは相変わらずね」

女性AとBが順番にそう言った。

「だーかーらー。楓真(ふうま)くんは間違いないんだから」

「はいはい。それで、どんな感じよ?」
女性Cが尋ねる。

「時間の問題だと思うわ。もう少しで付き合えるかも。なんてったって、過去のことを伝えているとき、彼、どこか懐かしそうな表情をしていたもの」

佐々木トモカの口調からは、自信がうかがえる。

「まったく、それ、ほとんどの男子が信じてしまうんだから、笑えないわよね」

「ほんっと。はたから見たら、ありえないって思うんだけど」

女性ABCがケラケラと笑った。

「そんな言い方ひどいわ! あのね! 私はウソをついているんじゃないんだから! 本当に過去に会ったことあるって思うのよ」

佐々木トモカが抗議する。

「はいはい。あとから、勘違いでしたーってパターンも多いけどね」
女性Bがなだめる。

「もう! そういうときもあるってだけよ」

彼女たちがあーだこーだと言葉を交(か)わしているあいだ、僕は茫然(ぼうぜん)と、トレイの一点を見つめていた。

この数分のあいだに、なにが起こったのか、イマイチ飲み込めていない。

 

「あのう」
男性の声がした。

ちらっと様子を見てみると、バーガー店のスタッフが佐々木トモカのいるテーブルのところに立っていた。

「あら? たしか、あなたは……」
女性Aの声がする。

「トモカさん! 僕、ぜんぶ思い出しました! それで、お付き合いを……」

彼が言葉を言い切る前に、佐々木トモカはこう言い放った。

「ああ、それね。ごめんなさい。どうやら、私の勘違(かんちが)いだったみたい。忘れてくれるかしら」

「え?」
男性スタッフは、佐々木トモカの言葉を受け入れられないようだった。

「可哀想(かわいそう)だけど、あなたは十二番目なの」
女性Cが声をかける。

「違うわよ。十一番目だったと思うわ」
「そうそう」
女性AとBが付け加える。

「まあ、今となっては、どっちでもおんなじだけどね」
佐々木トモカがとどめを刺した。

「そんな……」
男性は力が抜けたようにそう言ったかと思うと、すぐに、僕の席のすぐ横を通り、どこかへと去って行く。

彼のふらふらとした足取りと、小さな肩がすべてを物語っている。
「残念ながら、次は貴方(あなた)ですよ」と言っているようにも思えた。

僕は、彼が去って行った方向をしばらく見つめたあと、ゆっくりと姿勢を正し、手元のバーガーへと視線を落とした。

それから、なにごともなかったかのようにかぶりつく。

少し冷めているけど、やっぱりうまい!

でも……。

今年はじめて食べた期間限定のバーガーは、去年のそれよりもずいぶんとしょっぱく感じられた。

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