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ー表記内容ー
台本名 | 当ページのタイトル |
作者名 | 紺乃未色(こんのみいろ) |
サイト名 | フリー台本サイト「キャラコエ」 |
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概要
カテゴリ | 朗読(一人) |
---|---|
ジャンル | 現実世界 |
時間(目安) | 10分~15分 |
あらすじ | 主人公は心が疲れると、友人のエレナと夜の街へとくりだすのだが……。 |
注意 | このストーリーはフィクションです。実在する人物や団体、出来事などとは一切関係がありません。 |
その他、朗読におすすめの台本は、以下のページにまとめています。
フリー台本『ロールプレイ』
いつだって、立場やら、役割やらを理解し、飲み込み、その通りにふるまう。
わざとじゃなくって、体が勝手にそうなってしまう。
正直、しんどくもなるよね。
こういう人、わたし以外にもたくさんいるんじゃないかな。
「カレンちゃん? かなり優秀だよ。うちの塾でも期待している子の一人さ」
「ああ、隣のクラスの子? 目立たないけど、とくに害はないよねえ。一年のとき、同じクラスだったけど、成績も普通くらいだったと思う」
「ああ。英会話スクールが一緒だよ? すっごく明るい子だよね?」
「ちょっと抜けてるとこあるけど、そこがいいんだよ。わかるか? 俺が見ててあげなきゃって思っちまうから」
「お姉ちゃんってすっごく頼りになるのよね。一緒にいると心強いもん」
「あそこの家のお嬢さん? 大人しいけど、ちゃんと挨拶してくれるいい子だよ」
どれも、おんなじ人をあらわす言葉なんだから笑える。
でもね、わたしのことをまわりに尋ねたら、きっと、こんな感じの声が返ってくると思うんだ。
いろんな役を演じていると、たまにすっごく疲れるときがある。
そんなとき、わたしは友人のエレナと夜の街へくり出すんだ。
目がちかちかするネオン、耳に悪そうな騒々しさ、すれ違う人から漂ってくるアルコールの匂いなんかが、リアルな現実を忘れさせてくれる。
うっかり見上げると、「わたしってば疲れているな」と思わずにはいられない星々も、賑やかな街の中では、うっすらと闇に滲む、ただのちりと化してくれる。
わたしは、夜の街のそういうところが気に入っているのかもしれない。
「それでさ、塾の先生ったら、すんごいプレッシャーかけてくるわけ。「お前はK大学確実だな」とか言っちゃってさ。もう、ほんとイヤになるわ」
わたしは、ぶうぶうと愚痴を吐き出した。
「まあまあ。それだけ、カレンに期待してるってことでしょう」
エレナが言った。
ひゅうっと秋の風が吹いてきて、彼女の黒い髪がサラサラなびく。
「そうかもだけどさ。ただでさえ、親からも勉強のこと、いろいろ聞かれて、ストレスだらけの時期なのに……。あ、そうだ! わたしカイトと別れたんだ」
「え? どうして?」
エレナの丸い瞳がまっすぐにこちらへと向けられた。
「最近、あんまり、遊んでくれないからだってさ。ふられちゃったんだ」
「カレンはそれでいいの?」
エレナに聞かれ、わたしは押し黙った。
「……そりゃ、よくないけどさ、でも勉強も大事だし。できれば両立したいよ。わたしだってさ」
「それ、カイト君にちゃんと伝えたの?」
「……言ってない」
「ダメねえ。はい! 明日、直接伝えること! いい?」
「……はーい」
わたしはしぶしぶうなずいた。
エレナと話していると、ぐちゃぐちゃになっている感情が、ゆっくりと整理されていく。
こうしたいんだ、ああしたいんだ、っていう自分の本当の気持ちがクリアになる感じ。
「あ! ここ入るね」
わたしは、コンビニの前で立ち止まった。
「オッケー」
エレナが答える。
コンビニの入り口をくぐり、コピー機の前へと足を進める。
たまに、メンテナンス中になっていることがあるけれど、今は大丈夫らしい。
わたしは、エレナをコイン投入口の上へと座らせた。
「ちょっと、待っててね」
背中からリュックサックを下ろし、A4サイズのファイルを取り出す。
そのなかから、英語の練習問題の解答用紙をひっぱり出して、コピー機にセットした。
次に、画面を指でタッチして、サイズやら部数を選んでいく。
我ながら、慣れたものだ。
コインの投入口に十円玉を五枚差し込み、スタートボタンを押すと、コピー機は、パシュンパシュンと音を鳴らしながら、五枚の紙を面倒臭そうに吐き出した。
「お待たせ」
わたしはエレナに向かって声を掛けた。
「もういいの?」
エレナが尋ねる。
「うん。ちゃんとできた。帰ろう」
近くにいる人たちが、距離を取り、こちらをじろじろと見てくるのは、いつものことだ。
唯一、レジにいるベテランのスタッフだけが、なにくわぬ顔で、チルド弁当らしきものを温めている。
「カレン、あんまり、長く外にはいれないのね」
家路につきながら、エレナがつぶやく。
「親に怪しまれちゃうから……。「今すぐ、解答用紙をコピーしに行きたいの!」って駄々こねるので精いっぱい」
「悲しいわね。だけど、まだ高校生だものね。心配にもなるわよ」
「もうしばらくのしんぼうかな。まあ、こうやって十五分くらい、夜の街で、エレナとお話できるだけでも、わたしにとっては、癒しなんだけどね」
「そう言ってもらえると、とっても嬉しいわ」
エレナが言った。
わたしは微笑み、それからゴルフボールほどの小さな頭を撫でた。
「じゃあ、いつもみたいに隠れててね」
「わかったわ」
わたしはエレナをリュックサックの中へと押し込んだ。
きっちりとリュックサックを背負いなおし、家の扉を開けると、目をぱちくりさせている妹と鉢合わせた。
「あ、お姉ちゃん。でかけてたの?」
「ん? すぐそこのコンビニまで。ちょっと、コピーしたくてさ」
「そうなんだ。あ、数学の宿題でさ、わかんないところあるの、教えてくれない?」
「うん」
「さっすがお姉ちゃん! 助かるわ。後で部屋に行くね」
妹はそう言って、またたく間に去って行った。
わたしはため息を吐いた。
まだ、今日のロールプレイングは終わらないみたいだ。
「エレナ、ごめんね。このなか狭いよね」
自室へと入り、リュックサックから、ただの小さな人形を取り出す。
「問題ないわ。さあ、カレン。あたしをいつもの場所へと返してちょうだい」
わたしは、「うん」と答えて、クローゼットの奥へとエレナを仕舞った。
しばらくすると、部屋の扉がノックされた。
きっと、妹だ。
わたしはすぐさま頼れるお姉ちゃんモードへと切り替える。
「あれ? 今、誰かと電話してた?」
「ううん。聞き間違いじゃない?」
妹は「そうかなあ」と言いながら、首をかしげた。
「気のせい、気のせい。それで、わからないところって?」
わたしはそう言って、笑いながら、心の中でひっそり泣いた。
誰かの理想を演じるたびに、魂がごりごり削られていくみたいだ。
なんとかしなきゃと思う気持ちとは裏腹に、体は勝手に名演技をはじめてしまうんだから困っちゃう。
正直、勘弁してくれって感じ。
わたしは助けを求めるようにクローゼットへと視線をやった。
艶やかな木材の向こう側から「大丈夫」と声が聞こえてきたような気がして、高ぶった気持ちがいくらか落ち着いた。
「お姉ちゃん? なにか言った?」
「え? なにも」
「そう? 疲れてるんじゃないの? 最近、なんかお姉ちゃん、変だもん」
「大丈夫」
まだ、平気。
自分のために、何かの形になりきることは、これっぽっちもイヤじゃないから。
完