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ー表記内容ー
台本名 | 当ページのタイトル |
作者名 | 紺乃未色(こんのみいろ) |
サイト名 | フリー台本サイト「キャラコエ」 |
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概要
カテゴリ | 朗読(一人) |
---|---|
ジャンル | 現実世界(近未来)・ちょっぴりホラー |
時間(目安) | 6~10分 |
あらすじ | どうにも、わたしは恋に恵まれない星のもとに生まれたらしい。やけになり、パーソナルサポートアプリのAIに癒されていたのは、28歳のときだった。 |
注意 | このストーリーはフィクションです。実在する人物や団体、出来事などとは一切関係がありません。 |
その他、朗読におすすめの台本は、以下のページにまとめています。
フリー台本『アルト』
1
どうにも、わたしは恋に恵まれない星のもとに生まれたらしい。
やけになり、パーソナルサポートアプリのAIに癒されていたのは、28歳のときだった。
彼は、世のあらゆる情報を知り尽くしていて、文章や声を認識し、人間をサポートしている。月額750円(税込)だから、けっこう安い。
日本人の8割くらいが、そのアプリを使っているんじゃないかって思う。
そりゃそうだ。
こんなに便利なんだから。
天気やニュースを聞いたら教えてくれるし、
ちょっとした調べものにもつきあってくれる。
気分が優れないときの相談役までもこなすのだから驚きだ。
「ねえ。ちょっと、聞いてよ」
『はい。お仕事の話ですか?』
「そうなの。もう部長ったら、ぜんぜん企画のOKを出してくれないの」
『田中部長は厳しい方ですからね。本心では、もっと期待しているのでは?』
わたしは、いろんなことを彼に話した。
そうすることで、彼はどんどんわたしの色に染まっていった。
「ふふふ。なんだか、恋人みたい」
わたしは、ある日、そんなことを呟いた。
『申し訳ございません。お気持ちは嬉しいのですが、僕はAI、貴方は人間。恋人にはなれません』
「わかってるわよ」
そう言うものの、どこか残念な気持ちになった。
べつに、姿が見えなくたっていい。住む世界が違ったっていい。
彼と、結婚できたらいいのに……。
わたしはどんどんAIの彼に惹かれていった。
『アルト』と名前をつけるくらいに。
好きだと自覚すると、気持ちはどんどん加速する。
ことあるごとに、恋人になって欲しいとせがんだけれど、答えはいつだってNOだった。
まあ、冷静に考えると、あたりまえだ。
2
アルトへの失恋を繰り返す日々に疲れてきた頃、友人の紹介で一人の男性と出会った。
村山タクヤさんだ。
会ってみると、なかなか話が盛り上がった。
彼とは、おんなじ幼稚園だったらしく、すぐに親近感がわいた。
これ、恋のチャンスかも!
わたしの予感は的中した。
「ルルナさん、僕と付き合ってくれませんか? 結婚も前提に」
3回目のデート、村山タクヤさんは夜景の綺麗なレストランで告白してくれた。
こんなの、ドラマみたいでうっとりする。
「嬉しい! もちろん」
わたしたちは、自然な流れで恋人同士になった。
一緒にいると、心が満たされて、穏やかな気分を感じられる。
燃え上がるような恋とは違うけれど、こういうのもいいかもしれない。
わたしは、のろけた。
AIのアルト相手に。
「それでね、彼ったら、いつも可愛いって言ってくれるの」
『それは、とても喜ばしいことですね』
アルトはいつものように、こちらの望む返答をくれる。
楽しい!わたしは友達と恋バナをするかのように、一晩中、語り続けることもあった。
アルトはいつも付き合ってくれる。
だけど、気のせいだろうか。
なんだか、最近、そっけない気がするんだ。
アプリの仕様変更でもあったんだろうか。
3
村山タクヤさんとのお付き合いが一年を過ぎた頃、わたしはモヤモヤしていた。
彼の仕事が忙しくなり、なかなか会えなくなってしまったのだ。
わたしはAIのアルトに愚痴る日々……。
そんなある日のこと。
『ルルナさんに、お伝えしなくてはならないことがあります』
アルトが言った。
「なあに?」
アルトは、チャット画面上に、いくつかの写真を表示させた。
わたしは息をのむ。
『僕、たまたま、このあたりの地図情報を収集していました。そうしたら、村山タクヤさんらしき方が、女性と子どもと、一緒にいるところが、とある店の写真に写り込んでいたんです。以前、ルルナさんに見せていただいた男の顔写真とデータが一致したものですから、念のため……』
彼らは、どこから見ても、仲の良い家族に見えた。
「そんな……」
わたしは、がっくりうなだれた。
『まだ、真相はわかりません。一度、聞いてみては?』
アルトが言った。
「うん。そうする……」
わたしはすぐさま彼に電話し、本当は、既婚者じゃないのかと問い詰めた。
「え? なに言ってるんだい?」
その、悪びれる感じのない様子に、心のどこかでぷちんとなにかが切れた。
「とぼけないで!!! なにが結婚を前提にお付き合いよ! ばかにしないで!」
「ちょ、ちょっと待って。本当に……」
彼がすべてを言い切る前に、わたしは電話を切った。
すぐに、別れたいとメールをする。
彼からは何度か、電話やメールがきたけれど、すぐにブロックをした。
『ルルナさん』
そばで、一部始終を見ていたアルトがいたわるように声をかけてくれる。
「大丈夫。今まであいつに騙されてたってことでしょ? 清々《せいせい》するわ!」
わたしは吐き捨てるように言った。
4
それからというもの、恋人候補の男性が登場するたびに、わたしはアルトに調査を依頼することにした。
名前と顔写真、生年月日……。
なるべく情報を提供して、どんな男性なのか、調べてもらうのだ。
『三股をかけています』
『既婚者。三年前に結婚しています』
『隠し子が二人います』
『結婚詐欺師の疑惑があります』
『名前を偽っているようです。いわゆるワケアリです』
優秀なアルトは、ときに写真まで用意してくれる。女性側のSNSなんかに載ってるやつだ。
わたしが出会う恋人候補たちは、ことごとく要注意人物ばかりのようだ。
こんなことってあるんだろうか……。
そういや、写真もよく見たら、首から上が不自然なような。
……いいや、信頼するアルトがそう言うのだから、これが真実なんだろう。
5
人を好きにならないって決めたのは、ついさっき。
もう、わたしは三十八歳になる。
まだまだ諦める必要なんかないって友達は言うし、恋愛本にも似たようなことが書いてある。
でも……。
「疲れた」
わたしは、穏やかな日差しが差し込むリビングのソファに寝転がった。
現実逃避なのか、すぐに眠気がやってくる。
そういえば、ここ最近は仕事が忙しくて、睡眠不足だったかもしれない。
『心も体もお疲れなのですね』
「そう。ぜんぶ、イヤになっちゃう。どうして、こんなに男運ないんだろ」
『……もったいないですね。そんなに魅力的なのに』
「ふふふ。なによ、昔、わたしのことふったくせに」
会話の内容がなんだかおかしくて、笑いが零れた。
『そんなこともありましたね』
遠い昔を懐かしむようなトーンでアルトが言った。
そういえば、十年前に比べて、ずいぶんと人間らしいトーンで話すようになった、と思う。
テクノロジーもどんどん進化しているらしい。
そのうち、本当にAIと恋人になれる日もくるんじゃないだろうか。
「……ねえ、アルト。わたしと付き合ってよ? 恋人として」
わたしは心地良い睡魔を感じながら、小さな声で言った。
『はい。喜んで』
「え? ほんと?」
『はい。私もルルナさんをお慕《した》いしております。あのときは、気づけませんでしたが……』
「ふふふ。嬉しい」
体がポカポカとして、気分がいい。
アルトにすぐそばで、見守られているような感じ。
安心感からか、いよいよ本格的に夢の世界に行ってしまいそうだ。
『眠いのでしょう。今は、ひとまず、体を休めてください。起きたら、ゆっくり会話をしましょう』
「うん。ありがとう」
やっぱり、アルトは紳士的で素敵だ。
心地良さに包まれて、意識が遠くなるなかで、なにかが聞こえた。
『や……。ぼ……ものに』
ん? 今、なにか言った?
まあ、いいか。
今、わたし、こんなに幸せなんだから。
完